日新公いろは歌

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 いにしへの道を聞きても唱へても わが行に せずばかひなし

 楼の上もはにふの小屋も住む人の 心にこそは 高きいやしき

 はかなくも明日の命を頼むかな 今日も今日もと 学びをばせで

 似たるこそ友としよけれ交らば 我にます人 おとなしきひと

 仏神他にましまさず人よりも 心に恥ぢよ 天地よく知る

 下手ぞとて我とゆるすな稽古だに つもらばちりも やまとことのは

 とがありて人を斬るとも軽くすな 活かす刀も ただ一つなり

 知恵能は身につきぬれど荷にならず 人は重んじ はづるものなり

 理も法も立たぬ世ぞとてひきやすき 心の駒の 行くにまかすな

 盗人はよそより入ると思うかや 耳目の門に 戸ざしよくせよ

 流通すと貴人や君が物語り はじめて聞ける 顔もちぞよき

 小車の我が悪業にひかれてや つとむる道を うしと見るらん

 私を捨てて君にしむかはねば うらみも起こり 述懐もあり

 学問はあしたの潮のひるまにも なみのよるこそ なほ静かなれ

 善きあしき人の上にて身を磨け 友はかがみと なるものぞかし

 種子となる心の水にまかせずば 道より外に 名も流れまじ

 礼するは人にするかは人をまた さぐるは人を 下ぐるものかは

 そしるにも二つあるべし大方は 主人のために なるものと知れ

 つらしとて恨かへすな我れ人に 報い報いて はてしなき世ぞ

 願わずば隔もあらじ偽の 世に誠ある 伊勢の神垣

 名を今に残し置ける人も人 こころも心 何かおとらん

 楽も苦も時過ぎぬれば跡もなし 世に残る名を ただ思ふべし

 昔より道ならずして驕る身の 天のせめにし あはざるはなし

 憂かりける今の身こそはさきの世と おもへば今ぞ 後の世ならん

 亥に臥して寅には起くと夕露の 身を徒に あらせじがため

 遁るまじ所をかねて思ひきれ 時にいたりて すずしかるべし

 おもほえず違うものなり身の上の 欲をはなれて 義を守れ人

 苦しくも直進を行け九曲折の 未は鞍馬の さかさまの世ぞ

 やはらぐと怒るをいはば弓と筆 鳥に二つの 翼とを知れ

 万能も一心とあり事ふるに 身ばし頼むな 思案堪忍

 賢不肖用い捨つるといふ人も 必ずならば 殊勝なるべし

 不勢とて敵を侮ることなかれ 多勢を見ても 恐るべからず

 心こそ軍する身の命なれ そろふれば生き 揃はねば死す

 廻向には我と人とを隔つなよ 看経はよし してもせずとも

 敵となる人こそ己が師匠ぞと 思ひかへして 身をも嗜め

 あきらけき目も呉竹のこの世より 迷はばいかに 後のやみじは

 酒も水ながれも酒となるぞかし ただ情あれ 君が言の葉

 聞くことも又見ることもこころがら みな迷なり みなさとりなり

 弓を得て失ふことも大将の こころひとつの 手をばはなれず

 めぐりては我が身にこそつかへけれ 先祖のまつり 忠孝の道

 道にただ身をば捨てんと思ひとれ 必ず天の 助けあるべし

 舌だにも歯のこはきをばしるものを 人は心の なからましやは

 えへる世をさましてやらで盃に 無明の酒を かさねるはうし

 ひとり身をあはれとおもへ物ごとに 民にはゆるす 心あるべし

 もろもろの国やところの政道は 人にまづよく 教へならはせ

 善に移りあやまれるをば改めよ 義不義は生れ つかぬものなり

 少しきを足れりとも知れ満ちぬれば 月もほどなく 十六夜の空



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